てんかんについて知る
てんかんについて正しく知ることは
安心感へとつながります。
てんかんという病気の全体像を
わかりやすくご説明します。
- 監修
- 聖マリアンナ医科大学 小児科 教授
- 山本 仁 先生
てんかんとは
てんかんは、脳の病気です。私たちの脳は、神経細胞のスイッチがバランスよくオンとオフを繰り返して、 正しい情報のやりとりや体を動かす命令を出したりしています。
てんかんは、大脳の神経細胞の多くに、いっせいにスイッチが入ってしまい、バランスがとれなくなってしまうことで、 さまざまな症状(発作)を引きおこしてしまう病気です。
てんかんは子どもから大人まで発症する病気です。
てんかんを持つ人の割合はおよそ100人に1人といわれています。
日本には約100万人のてんかん患者さんがいると考えられており、てんかんはとても身近な病気だといえます。 てんかんは、発症の原因もさまざまですが、治りやすさ(予後)もさまざまです。
てんかんを発症しやすい年代
すべてのてんかんを合わせてみた場合、約3%の人が一生のうちでてんかんを経験するといわれています。
子どもの病気、というイメージを持っている方も多いかもしれませんが、高齢化社会に伴って、お年寄りになってからてんかんを初めて発症する人も増えてきています。
てんかんになる原因
脳の奇形や周産期の異常による、生まれつきのものから、脳炎や脳腫瘍など、別の病気が原因によっておこるもの、交通事故などの大きなケガによるもの、脳卒中によっておこるもの、さらに、認知症などの神経が老化することによっておこるものがあります。
近年では、遺伝子の異常によるてんかんの研究も進んできています。
しかし、原因が明らかにわかるてんかんは実は半分以下で、現代の医学ではまだ原因がはっきりとしないものが全体の約6割を占めています。
発作がおこる仕組み
てんかん発作がおこる仕組み
てんかん発作は興奮性のシグナルと抑制性のシグナルのバランスが崩れることでおこります。
このとき発生する異常脳波を、てんかん発射(てんかん放電)といい、てんかんの源になる部分を焦点といいます。
脳の機能と発作の関係
私たちの脳は、部位によって役割が異なっています。
ものを記憶したり、考えたり、手や足を動かすなどの機能を担っているのが大脳です。
てんかんは、この大脳のどこかに異常な興奮がおこることで発作がおこる病気です。
部分発作の場合、焦点(発作がおこる源)の場所によって、現れてくる発作がそれぞれ異なります。
また、大脳は右と左に2つに分かれており、それぞれ体の反対側の半分をコントロールしています。
脳の右半分に焦点があれば発作の症状は主に左半身に現れ、焦点が左半分にあれば、発作の症状は主に右半身に現れます。
「どんな発作が、体のどちら側のどこに、どんな風に現れたのか」を細かく観察することは、 どこにてんかんの焦点があるのかを推測する重要な手がかりになるのです。
-
大脳は反対側の体の動きを
コントロールする -
左側の手に発作の症状が出る場合
右側の脳の手を動かす機能を持つ部分に
焦点がある可能性がある
てんかんの診断
てんかんの診断は
- ①てんかんか否かの診断
- ②てんかん発作型の診断
- ③てんかん症候群の診断
の3ステップで進めていきます。
まずは発作がおこった状況や発作の様子などについての細かい問診と、脳波検査を中心に、てんかんかどうかを判別します。
特に小児では、てんかんではない発作として、熱性けいれんや胃腸炎に伴うけいれんなどがあるので、それらをしっかりと否定できる場合にてんかんの診断がつけられます。
てんかんの分類と特徴
てんかんの分類
てんかんは、その原因や発症年齢、発作の症状などはさまざまで、その予後(将来的な治りにくさ、障害の程度など)もタイプによって違ってきます。
「発作がおこる部位」と、「てんかんの原因」で大きく4つのタイプに分けることができます。
小児期に多いてんかんの特徴
小児のてんかんは、時期によって発症しやすいてんかんのタイプが異なります。
各年代ごとに、発症しやすいてんかんの特徴は次のとおりです。
-
①新生児期・乳児期
この時期は、てんかんの発症率がもっとも高い時期です。
自然に発作がなくなるタイプのてんかんもありますが、 一方で、お薬を使っても発作が止まらないタイプ(難治)のてんかんである、てんかん性脳症が多くみられます。
てんかん性脳症 >新生児期の場合、けいれんの原因には、脳の形成異常や遺伝子の異常の他に、低酸素性虚血性脳症や、 感染症や、先天性代謝異常などがあり、てんかんではないものがたくさんあります。
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②幼児期・学童期
この時期は、小児期のてんかんの中で、てんかんの発症率が2番目に高い時期です。
発症するてんかんのタイプが最も多く、自然に発作がなくなるタイプのてんかんの割合が最も多い時期ですが、他の時期のてんかんに比べて発作の数が多いため、てんかんが学校生活に影響することがあります。
この時期の特発性てんかんは、診断が決まれば治療薬もほぼ決まり、多くの場合は少なめの量の抗てんかん薬で80~90%の人で発作が止まり、通常は精神発達の遅れはみられません。
この時期の症候性てんかんの原因では、脳の形成異常や、脳の発生に関連する腫瘍や、脳梗塞・脳出血などの周産期要因、脳炎や脳症の後遺症、脳の一部(海馬)の硬化などがあります。
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③思春期
この時期は、小児期ではてんかん発症率が最も低い時期であり、発作の頻度も少なく、日に何度もというような頻発はしません。
この時期に発症するてんかんは、一度発作が止まっても、再発するものが多いとされています。
若年ミオクロニーてんかんでは抗てんかん薬で90%以上が発作が止まりますが、服薬をやめると80~90%以上が再発します。また、この時期に発症して成人まで持ち越した人は難治になりやすいといわれています。
てんかん性脳症とは
小児期のある決まった時期に発症するてんかんで、ウェスト症候群とレノックス・ガストー症候群を中心とした、 症候性(潜因性)の全般てんかんのグループをてんかん性脳症といいます。
年齢によって、発症するものが異なっているため、「年齢依存性てんかん性脳症」と呼ぶこともあります。
各タイプの発症しやすい年齢 >てんかん性脳症を疑う特徴
- ◯脳波検査で特殊なてんかん性発射が見られる
- ◯抗てんかん薬が効きにくい発作
- ◯発作以外に、ことばや認知、運動に発達の遅れがある
てんかん性脳症は、発作が頻回であり、発作がおきていないときでも脳が興奮状態になっているため、 てんかん性の脳の活動そのものが、考えたり、行動したりすることを妨げてしまい、正常な知能の発達ができなくなってしまいます。
患者さんの数も少なく、まだ治療法も確立していないものも多いですが、早期に診断し、 治療を開始することで、将来的に脳が受けるダメージを軽減できる可能性があります。
レノックス・ガストー症候群
(LGS:Lennox-Gastaut症候群)とはレノックス・ガストー症候群は、ウェスト症候群などと同じ「てんかん性脳症」と呼ばれる てんかんのグループのひとつで、潜因性または症候性全般てんかんに分類されます。
強直発作をはじめとするさまざまなてんかん発作をおこし、 1種類のお薬で発作症状を抑えるのは難しいことが多く、いくつかのお薬を併用します。 精神運動発達遅滞※なども伴い、さまざまな治療、ケアが必要となるため、かかりつけ医だけでなく、 本人の病状に合わせた医療が受けられる設備やスタッフのそろった 専門の医療機関を受診することが重要です。
※精神運動発達遅滞:脳へのダメージによる発達の遅れ
発症の原因
発症する時期
1~8歳で発症し、3~5歳での発症がもっとも多いといわれています。
発作のタイプ
主に強直発作、脱力発作、非定型欠神が見られます。
また、ミオクロニー発作や強直間代発作、部分発作などを伴うことがあり、タイプはさまざまです。
特に、転倒する発作によってケガをしてしまうので、保護帽なども活用します。
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治療方法
患者さんごとに持っている発作に合わせてお薬を選びます。
特に、どの発作が転倒の原因になっているかを判断し、その発作に対するお薬を最初に使用します。
複数の発作が難治に経過するため、いくつものお薬を併用することが多く、副作用のチェック、
発作の治療とともに、本人の生活の質(クオリティ・オブ・ライフ=QOL)にも配慮して治療を行います。
お薬による治療で発作が十分に抑制されない場合、ステロイド(ACTH)療法、γ(ガンマ)グロブリン療法、
ケトン食療法が行われることもあります。
また、転倒する発作に対しては、脳梁離断術(のうりょうりだんじゅつ)や迷走神経刺激療法などの手術が有効な場合もあります。
主治医と相談してみると良いかも知れません。
予後
発作は66~95%で持続するといわれています。
また、精神運動発達遅滞については、75~99%で認められ、そのうち44~50%が重度の精神運動発達遅滞を合併します。
一方で、確率は低いですが、発作が抑制されることもあり、将来的に仕事に就くことができるケースもあります。
発作が抑制されることで、知的発達が望めることもありますので、根気よく治療を行うことはとても重要です。
治療を始めるときには、たくさんおこる発作を止めることだけに注目しがちですが、本人の発達や日常生活の様子にも目を向けてあげましょう。
転倒によるケガを防ぎ、生活範囲を少しでも広げ、より多くのことを経験させて、本人の持っている能力を伸ばしてあげることが大切です。
発作とうまく付き合いながら、主治医や学校の先生、同じ悩みをもつ他の家族などと情報交換を行い、前向きに治療を続けて行きましょう。
発作がおきたら >てんかんの治療
てんかんの治療は、発作の種類や患者さんの症状などにそって、薬物療法を中心に行います。
また、いくつかのお薬を試しても、発作がなくならないてんかんを、
「難治てんかん」と呼び、食事療法や手術などの外科治療を行う場合もあります。
また、医療機関で受ける治療以外にも、睡眠不足やストレスを避けたり、
発作がおこりやすい要因を避ける、という生活の工夫も大切です。
薬物療法
てんかんの薬物療法では、抗てんかん薬と呼ばれるお薬を服用します。
お薬は、発作の種類や症状、患者さんの体質に合わせて使い分けます。
1種類のお薬だけで発作を抑えられない場合には、いくつかのお薬を組み合わせて併用します。
なお、それぞれのお薬には副作用がありますので、医師や薬剤師の指示に従い正しく服用します。
※各お薬の用法や副作用などの詳細は、下記のサイトで調べられます。
くすりのしおり >※上記をクリックすると、外部サイトへ移動いたします。
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お薬の使い分け
抗てんかん薬には、さまざまな作用で神経の興奮を抑えるものがあります。 これまでのたくさんの患者さんへの使用経験によって、効きやすい 発作型や、反対に悪くする発作などが明らかになっています。 患者さんごとの病状や体質によって、一人ひとりに合わせてお薬を選んでいきます。
お薬を飲み続ける理由
お薬は飲んだ後、消化管で吸収されて体の中に入ります。
抗てんかん薬は、1度飲んだだけで効果を発揮する、というものではありません。
ほとんどの抗てんかん薬は毎日飲み続けていくことで体の中のお薬の濃度(血中濃度)が徐々に高くなっていき、数日~数週間で安定します。
自己判断でお薬の服用を中止してしまうと、お薬の効果が十分に発揮されないため、発作がおこりやすくなってしまうだけでなく、てんかん重積がおこったり、自分にあったお薬を見つけることができなくなります。
食事療法
薬物療法だけでは発作が抑えられない場合、食事療法を行うこともあります。
ケトン食療法は、エネルギーのもとになる糖類(炭水化物から食物繊維をのぞいたもの)を極力抑える代わりに、脂肪を増やした食事による食事療法です。
全般発作・部分発作を問わずあらゆる発作型に有効性が期待できます。(一部の疾患を除く)
全体としては半分の患者さんで発作が半分になり、20%前後の患者さんで発作が消失するといわれています。
薬物療法だけでは発作が抑えられない場合、食事療法を行うこともあります。
ケトン食療法は、エネルギーのもとになる糖類(炭水化物から食物繊維をのぞいたもの)を極力抑える代わりに、脂肪を増やした食事による食事療法です。
全般発作・部分発作を問わずあらゆる発作型に有効性が期待できます。 (一部の疾患を除く)全体としては半分の患者さんで発作が半分になり、20%前後の患者さんで発作が消失するといわれています。
ケトン食のメリット
- ①お薬ではないため、薬による副作用が増えないこと
- ②精神面の改善が認められること
ケトン食のデメリット
- ①食事の作り方・献立の作り方に工夫が必要であること
- ②家族や友達と同じものが食べられないこと
- ③偏った食事食事になるので、サプリメントなどで栄養素の補充が必要になること
注意 : ケトン食は栄養の偏った食事になるので、医師や栄養士の指導が必要です。
開始時には、入院が必要となることがありますので、まずは主治医にご相談ください。
ACTH療法(副腎皮質刺激ホルモン療法)
副腎皮質刺激ホルモンの注射をある一定の期間、連日投与する治療法です。
てんかんのうち、日本で保険適応となっているのはウェスト症候群のみですが、大田原症候群、レノックス・ガストー症候群、そのほかの症候性全般てんかん、ランドー・クレフナー症候群、徐波睡眠時に持続性棘徐波を示すてんかん(CSWS)、ラスムッセン症候群などにも使用された報告があります。
有効例ではACTH療法開始後1~2週間で効果が現れ、50~90%で発作消失が得られるといわれていますが、副作用がほぼ全員に現れます。 ACTH療法のほかに、一定期間ステロイドや免疫抑制剤を使用する 治療法も開発がすすんでいます。
外科治療
てんかんの外科治療(手術)には、発作を止めることが目的の「根治手術」と、発作の症状を和らげたり、頻度を減らすことが目的の「緩和手術」があります。
近年、手術に関する技術も進歩しており、さらに迷走神経刺激(VNS)が保険適応となり、徐々に広まってきています。
すべての患者さんに手術の適応があるわけではありませんが、お薬による治療を行っても発作がおさまらない場合、主治医と相談してみるとよいでしょう。
※てんかん専門の施設に紹介が必要になることもあります。
日本光電工業株式会社 >全国てんかんセンター協議会 >
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